「幻聴妄想かるた」の活用

たぬき工房では作業の他にも「オトナの部活動」として、日常生活や生き方に役立つプログラムなどを行っています。現在、部は合唱部・書道部・ネイチャーウォッチング部など5つの部があり、活動内容は多岐にわたります。2月下旬には「人生案内研究会」と「COOL JAPAN研究部」の2つの部の合同企画として、「幻聴妄想かるた」を取り入れた2日間の活動を行いました。

「幻聴妄想かるた」とは、東京都世田谷区にある福祉事業所が編著し、商品化されたものです。幻聴と妄想の出来事を、古来のカードゲームであるカルタで表現するという斬新なアイデアで、看護学校などでも教材として使われています。カルタの中身をいくつか挙げると、

  • 「ゆ」 有名人になり自叙伝も売れた CDも売れた 家を建てよう 村役場に電話した
  • 「ふ」 ふいに空から声がして 「三越の前で待っている 歩いて来い」 1日待ったが誰もこなかった
  • 「や」 やはりかすかな声 「待っています」「ついて来い」 五反田から江ノ島まで歩いてしまう

といった感じで、実際の幻聴妄想(でも本当は事実かもしれない)での出来事を絵札にしたものです。この「幻聴妄想かるた」の商品パッケージには、「解説本」 CD「読み札音声」 DVD「幻聴妄想かるたが生まれた場所」が付録されています。

合同企画の1日目は、DVD「幻聴妄想かるたが生まれた場所」を視聴しました。幻聴妄想かるた誕生の舞台裏を紹介するドキュメンタリーでした。かるたの言葉を発したご本人のリアルな様子や、福祉施設での日常、制作の過程が切り取られていました。

翌2日目は実際にこのカルタで遊んでみました。幻聴妄想と共に生きているメンバーと、そうではないメンバーが交じって参加しました。幻聴妄想の出来事やその背景を、本人以外の人がカルタの言葉や絵から理解するのは困難なこともありますが、似たような経験を持つ当事者同士では、「そうそう、わかるわかる」という共通感覚を味わることもあるようです。読み札音声CDの読み声は、なんとテレビアニメ「まんが日本昔ばなし」の語りでおなじみの市原悦子さん。ついつい声に引き込まれてしまい、札を取り忘れてしまうなどのハプニングも含め、大いに楽しめました。

たのしさと共に、いろいろな学びと気づきをいただいたオトナの部活動となりました。

 

幻聴と妄想は日々変化し、自分にとって良いことも悪いことも起こります。それは自分ではコントロールできない「いきもの」のようなものです。それを完全に消し去ることはできなくても、なんとかうまく共存していくには、幻聴妄想を否定せずに安心して言葉に出せる環境が助けになることがあります。またときには、聴こえてくる幻聴や妄想に自己対処する工夫やスキルを身に着けることによって、トラブルなく日常を乗り越えられることもあります。

福祉の形態が多様化され、目に見える支援やその成果が求められる時代において、目に見えないことを形にするアイデアと実行力から生まれたこのカルタ。医学書院より書籍の扱いで出版されています。制作や販売に関わった皆様に感謝いたします。

 

幻聴妄想かるた

https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/82112